かまど

「はじめちょろちょろ なかぱっぱ 赤子泣いてもふたとるな」呪文みたいやけど、これは、かまどでご飯炊くとき必要な言葉や。かまどは今でいう、台所のガスや電気の調理器やと思ったらええ。おくどさんとか、へっついさんとも呼ばれていた。

土間には、土で練った囲いのあるかまどがあった。焚口が三口あり、上に鍋や釜を置く丸い穴が開いていた。蓋のある釜でご飯を炊き、鍋で煮物や汁物を作った。焚口の前に座り、こくば(山でとってきた木の葉の乾いたもの)を入れ、火をつけると、細い木の枝を入れ、薪で炊た。なんせ、かまどには、煙突がない。部屋中が煙でいっぱいになる。わいがやると、くすぼって、煙とうて目も開けとられへん。火吹き竹という、竹の中をくりぬき、穴を開けたのを口で吹いて、やっと薪に火が付いた。

煙突がないのには理由があった。日本は、梅雨で雨が降ったり、夏は蒸し暑いから、藁屋根は、腐ったり虫がわいたりする。家全体を煙でいぶす。部屋いっぱいに煙が充満すると、屋根裏を通って屋外に出る。藁屋根の横の穴から、ゆうげの時間になると灰色の煙が出た。家の中の壁も、天井の太い梁も、煤で、真っ黒や。猫がかまどの中で寝て、残った火で毛を焼いて、ボロボロ。可哀そうに、冬は寒かったんやろな。

わいもおじいになった。かまどで炊いたご飯は、麦がいっぱい入って黒かったけど、おいしかったなあ。

〈注〉世界中にかまどはあった。ガスや電気の普及で、かまどは消えて、懐かしい思い出になってしまった。

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