しんし(伸子)で洗い張り
お母ちゃんは、季節が変わると着ていた着物をほどいた。
「これが袖やったとこ。この長いのが身ごろで、衽(おくみ)に襟(えり)や。よれよれになっとるやろ。布が薄くなったところは裏に布で補強をする」
お母ちゃんは、ほどいた長い布から短い布や細い布まで、みんな縫い付けて、一枚の長い反物状態にした。
「なんで、そんな手間なことするんや?」
「そやかて、いっつも着物は、しゃきっと着たいやろ」
今日はええ天気やから、伸子を使って洗い張りをするんやと。
綺麗に洗った布に、両端に針のついた40cmの長さの竹ひごを刺してゆく。弧状になった竹ひごがいっぱい並ぶ。
「一枚の着物だった布に、伸子を300本ほど刺すんやで」
「たいへんやな」
「ぴんと伸ばさんと布の幅が縮んでしまうやろ。こうやって手間をかけて生まれ変わった布を、着物に縫いかえるのはええもんや」
お母ちゃんは楽しそうに伸子を刺してゆく。刺し終わると、両端に張手棒をつけ、柱や木に紐で縛り空中に張った。
私の仕事が待っていた。
「重いけどしっかり持っとってな」
私は、糊の入った金(かな)盥(だらい)を持ってお母ちゃんの傍らに立った。
お母ちゃんは手ぬぐいで姉さんかぶりをして、腰に弾みをつけ、伸子の付いていない布面に、金盥の中の糊を刷毛で塗っていく。
布は、風に乗り龍のようにくるくると舞いながら乾いていった。
〈注〉
昭和の初めまで、和服を着ている人が多かった。洗い張りは、一枚の着物を長く着るための知恵だった。洗い張りには、伸子張りと、板張りがある。

西播磨生活創造しんぶん「ネットめばえ」 2016年5月1日発行vol.126掲載